子どものむし歯は削る? 削らない?
今回のテーマは「子どものむし歯」です。
保育園や小学校の歯科健診で「むし歯があります」と言われて・・・
ご飯を食べていたら急に痛がりだして・・・
むし歯があるのは知っていたけど放っておいたら・・・
「仕事が忙しくて通えないから早く治してくれるといいなぁ」
みなさん、そう思われると思います。
子育て世代の親御さんにとって、子どものむし歯は悩みの種ではありませんか。
ところで、そのむし歯って、すぐに削って詰めていいのでしょうか?
「は? 何言ってるの? むし歯は削って治すものでしょう!」
そう思われるかもしれません。
しかし、そうではありません。それは間違ってます。
結論から言います。
子どものむし歯はすぐに削ってはいけません!
特に、痛がっている時のむし歯を削るなんて、とんでもありません。
なぜ削ってはいけないのか理由を説明します。
この説明が難しくて、これまでたくさんの方にご迷惑をおかけしてきました。
本当に理解して欲しいことなので、ぜひ最後まで読んでいただけると幸いです。
子どものむし歯はすぐに削らない
すぐに削らない、削ってはいけない理由を書きます。
削らない理由
- むし歯になった原因を特定、改善していない
- 乳歯のむし歯はほとんど急性カリエスである
すぐに削ると言うことは、むし歯の原因を特定せずに、原因を取り除くこと無く治療 = 歯を削るということになります。
むし歯は転んでケガをするのとは違います。偶然起こるものではなく必ず原因があります。
何らかの原因があるから、むし歯になります。これは歯医者の常識です。
原因を放置したまま歯を削るというのは、どうでしょうか? 何かおかしくありませんか?
ちょっと適切なたとえかどうか分かりませんが例を挙げてみます。
毎日の通学路にはガラスや釘が落ちています。
自転車に乗っているとタイヤがパンクしてしまいました。
急いで自転車屋さんに行ってパンクの修理をしました。
次の日、通学路を自転車で走っていたら、同じようにパンクしました。
また、自転車屋さんでパンクの修理をしました・・・
いかがでしょう? 言いたいことが伝わりますか?
「原因を放置したまま歯を削って詰める」という行為は、このたとえ話のようなものです。
原因が残っているのだから、同じことを繰り返すだけです。
しかも、お口の環境はどんどんむし歯ができる状態で他の歯のむし歯も進行していきます。
この状態で1本のむし歯を削ることに意味があるとは思えないのです。
次に、子どものむし歯はほとんど「急性カリエス」だと言うことです。
むし歯には慢性カリエスと急性カリエスの2つの状態があります。
慢性カリエスは色は黒っぽいですが、むし歯自体は硬くて進行がとても遅いか停止しています。
一方、急性カリエスは色は白っぽく、むし歯自体に水分を多く含み、軟らかく、進行がとても早いのが特徴です。
慢性カリエス | 急性カリエス | |
---|---|---|
色 | 黒っぽい | 白っぽい |
むし歯の状態 | 硬い | 水分が多く軟らかい |
進行速度 | 遅いか停止 | とても早い |
むし歯を削るというのは、むし歯で軟らかくなってしまった象牙質(=軟化象牙質)を削り取ることです。
急性カリエスでは軟化象牙質が多いため、たくさん削ることになります。
乳歯は永久歯よりも弱くて神経までの距離が短いので、すぐに神経まで達してしまいます。
つまり、急性カリエスのまま削ることはリスクが高いのです。
それでは、どうすればいいのでしょう?
削らずにどうするか
- むし歯の原因を特定して改善する
- 急性カリエスを慢性カリエスにしてコントロールする
僕はこの方法がいいと考えています。これは、予防歯科を実践する僕の信念です。
子どもに嫌な思いをさせずにすみますし、何より原因を改善することを重視していますので、将来のむし歯リスクを減らすことができます。
実際、子どもの頃にむし歯だらけだったお子さんも、無事に永久歯でむし歯ゼロになることができました。お母さんが、諦めずに信じて通ってきてくださったおかげです。
子どものむし歯を削るとき
「まだ削ってくれないんですか?」
「いつになったら削って治療してくれるんですか?」
そういうお声が聞こえてきそうですね。
では、どのような時に乳歯のむし歯を削っているか説明します。
乳歯のむし歯を削る条件
- 子どもがむし歯治療を理解して、無理なく治療ができる年齢になっている
- むし歯リスクがコントロールされて慢性カリエスになっている
- 乳歯のむし歯が隣の永久歯にうつりそう
- 根っこも感染して腫れて痛むことが多い
この条件が整った時に、むし歯を削ることがあります。
「削ることがある」というのは、1番目と2番目のチェックの場合には必ずしも削る必要が無いからです。
すでに、むし歯がコントロールされていて停止しているので、そのまま永久歯の交換を待っても問題ありません。
わざわざ削ってまで治療するメリットが無いからです。
3番目の、乳歯のむし歯が永久歯にうつりそうな場合は、1番目2番目の条件を満たしていれば削って治療をします。
この場合も、むし歯の形にもよりますが仮詰めのまま永久歯の交換を待つ場合もあります。
最後の、根っこの先が化膿して痛みが出る場合は抗生物質で炎症を抑えます。
腫れを繰り返してしまう場合、むし歯を削ることがあります。
子どものむし歯を削って治療するときは、
削って治療するメリット > デメリットとリスク
になっているのかを、いつも意識して自問しています。
決して「むし歯を削れること」を目標にしてはいけないのです。
上手にむし歯を削って治療ができる子を目指すのでは無く、
むし歯にならない子を目指すべきだと考えています。
もし、むし歯の治療が上手にできて治療したとしても、永久歯むし歯ゼロで大人になるまで「むし歯のリスク管理」に定期的に通院してください。
治療した歯というのは決して元の歯より強くはできません。治療した歯はリスクが高い歯です。
むし歯の治療のためでは無く、むし歯にならないようにクリニックを受診して欲しいのです。
目先の1本のむし歯を削るより、未来の28本の永久歯を救う!
長い文章を最後まで読んでいただいてありがとうございます。ご理解いただけると幸いです。
ご不明な点がございましたら、いつでもお尋ねください。
むし歯は削って詰めるもの、早期発見・早期治療がスローガンだった昭和の時代に生まれました。
恥ずかしながら、僕の口の中は治療の跡だらけです。
むし歯にならなくなったのは、歯学部に入って専門的にう蝕学を学んだ後でした。後の祭りです。むし歯は「なぜ起こるのか」を知っていれば、予防することはそれほど難しい病気ではありません。
ぜひ皆さんにも、むし歯は予防できる病気だということを、少しでも早く知ってもらいたいです。
歯医者になって、たくさんのむし歯を削ってきました。
開業当初には、親御さんの気持ちに応えようと、嫌がる子どもをなだめてむし歯を削っていました。歯科検診があるたびに治療の紙を持ってきて、むし歯は増えていくばかりでした。むし歯は削って治すものではありません。
歯は削った分だけ弱くなっていくだけで健康からは遠ざかっていくものです。
苦労して何とか残した歯は多少の延命をしたに過ぎず、予防管理できなければ結局抜歯になっていくのです。むし歯は削るよりも、予防した方がはるかに効率がいい。
何度も壁にぶち当たり、悩んだ末にたどり着いた僕の結論です。