歯科は外科と内科がアンバランス

医療は外科と内科のバランスが大事

医療は「外科と内科のバランスが大事」です。

こういうフレーズを医療ドラマなどで聞いたことはありませんか?
医療の現場の中では内科と外科の医師が話し合いながら治療方針を決定していきます。
内科の医師の診断に元に、外科の医師が切除範囲を決定していくような場面です。

お医者さんにはふつう外科と内科があります。
両方の立場から意見を出し合って最善の医療を目指しています。

ところで、歯科の外科と内科って何でしょう?
特に、歯科医院で内科って聞いたことありますか?

歯医者は外科医

歯医者が行う処置は外科処置です。

歯石のクリーニングをする、むし歯を削って詰める、歯を抜く、これらは全部外科に相当します。
学生時代に「歯科医師は外科医です」って教えられているので、歯医者がしているのは外科処置です。


ちなみに、英語の略称で歯科医師のことを「DDS」と表記します。Doctor of Dental Surgeryの頭文字です。
Surgeryとは外科医のことなので、歯科医師は外科医に分類されています。

それでは内科はどうなってるのでしょう? そもそも、歯科の内科って何?

「内科は無いか」なんて、親父ギャグを思いついてしまいました><

歯科の病気といえば、むし歯や歯周病ですね。
両方とも生活習慣病や慢性疾患としての要素が強い病気です。
本来なら、まさにドンピシャ内科の出番な訳ですが、歯科の内科って聞いたこともありません。


高血圧や糖尿病などの慢性疾患であれば、内科のお医者さんに定期的に通うはずです。
歯周病という慢性疾患になっているのに、定期的に通院する場所が無い?
歯科の内科はどこにあるのでしょうか?

歯科の内科はどこにあるの?

実は、歯科の内科は普通の歯科医院のなかに共存しています。

普段の仕事の中で、内科の役割がないがしろにされ続けたせいで、存在感が薄くなってしまいました。
もし内科の存在に気付いた方は、きちんと予防の大切さを知っている素晴らしい人ではないでしょうか。

歯科で内科のお仕事に相当する部分を書き出してみます。

歯科の内科

  • 問診・医療面接
  • 検査~診断、検査内容から診断までの説明
  • 現状の説明とモチベーションの向上
  • 治療方針の説明、カウンセリング
  • 病気の原因となるリスクの説明、改善指導
  • 患者さんに必要なセルフケアの改善指導(ブラッシング指導も含む)
  • セルフケアに必要な道具の処方(歯ブラシ、フロス、歯間ブラシ、歯磨き粉など)
  • 継続的なリスクとセルフケアのチェックおよび改善指導

ざっと、このような医療行為が歯科の内科に相当すると思います。
わかりやすく、かかりつけのお医者さんに行った時と比べてみましょう。

お医者さんの内科

内科医師

こんにちは。前回から何かおかわりありませんか?
どこか痛いところや具合の悪いことは無かったですか?

患者さん

はい、お陰様で特になんともありませんでした。

内科医師

前回の検査の結果です。少し値が悪くなっているようですね。
今回は、これまでと同じお薬で様子を見ましょう。
これ以上値が悪くなるようなら、お薬の種類を変えますね。
この病気は、お酒の飲み過ぎが一番の原因です。
できるだけ飲酒を減らして休肝日をもうけるように努力してください。

患者さん

はい、分かりました。なかなか難しいですが頑張ります。

内科医師

それでは、今回はこの前と同じお薬を30日分出しておきます。
朝昼晩の一日3回毎食後に飲んでください。

患者さん

はい。

内科医師

次は、またお薬が無くなる1ヶ月後くらいに診せてください。

いかがですか?

この流れを歯科医院に当てはめてみます。

歯科の内科業務

歯科医

こんにちは。前回から何かお変わりありませんか? どこか痛いところや具合の悪いことは無かったですか?

患者さん

はい、お陰様で特になんともありませんでした。

歯科衛生士

今回、歯周病の検査が少し悪くなってきているようです。
歯ブラシや歯間ブラシはこれまで通りできてますか?

患者さん

最近少し忙しくて忘れてしまうことが多くなりました。

歯科衛生士

そうでしたか。それでは少し念入りに深いところのバイオフィルムもリセットしますね。
これ以上悪くなってくるようならセルフケアの種類を見直して
必要に応じて定期検診の間隔も調整しましょう。
歯周病は毎日のセルフケアがとても大事です。また頑張ってください。

患者さん

はい、わかりました。なかなか難しいですが頑張ります。

歯科衛生士

それでは、前回と同じ歯ブラシと歯磨き粉を出しておきます。
歯間ブラシはワンサイズ上げてみましょう。
朝昼晩の一日3回毎食後にこの歯磨き粉を使って磨いてください。

患者さん

はい。

歯科衛生士

次回はまた、3ヶ月後に検査とクリーニングに来てください。

内科は歯科衛生士さんが担当

いかがでしょうか?

歯科では、内科の仕事は主に歯科衛生士さんが担当しています。
歯科医院の内科的な役割というのは、歯周病やむし歯の定期検診や予防管理、歯磨き指導や歯ブラシの処方になると思います。
外科処置ばかりが目立つ歯科医院ですが、本来なら内科も同等に機能しているべきです。

お医者さんに行って、悪くなるたびに切除などの手術を繰り返す人って見たこと無いですよね。
歯医者では普通に悪くなるたびに削る人がいるし、いまでも「悪いとこだけチョチョッと治して(削って)欲しい」と言われます。

このセリフを聞くと、僕はとても虚しくなります。
僕と同じように、他の先生も感じているのではないかと思います。

この医療の形がどれほど異常で、決していい結果にならないということを知ってもらいたいです。
守れるはずの歯も守れなくなっています。

まず内科、それでも防ぎきれなかった時に外科処置をする方が本来の姿のはずです。

日本の歯科医療がこのように歪んだ形をしているのは医療保険によるところが大きいのですが、その話はまた別の機会にでも。

医療保険のついでに、アメリカの医療保険について聞いたことがあるでしょうか?
アメリカでは、普通に数ヶ月おきに歯科の定期検診を受けています。
定期検診を受けて正しく予防をしていないと治療の際に医療保険が使えなくなります。

そのお陰で、むし歯になる人は少ないです。日本のように銀歯の人もいません。歯周病で歯を失う人も少ないです。

日本では予防をしていなくても、むし歯になれば保険で治療ができて銀歯になります。
何度治療をしても保険が使えますし、その結果、歯を失っても保険で入れ歯が作れます。

どっちの方が幸せでしょうか?

歯科も内科と外科のバランスが大事

歯科でも「内科と外科のバランスが大事」です。(敢えて内科と外科の順番を変えました)

削って詰めてを繰り返すのはバランスの悪い医療です。
病気の後のケア、病気にならないための予防も対等に機能すべきです。
歯科は外科ばかりを意識して、治療に専念しすぎました。

歯科大学の教育現場でも、治療学がメインでした。
大学病院の診療科を見ても、ほとんどの外来は外科です。

結果、歯科医院は「歯を削って詰めるところ」と認識されたまま今日に至ります。
本来なら「歯とお口の健康を守るところ」であるべきで、そうならなくてはと思います。

歯科医療の現場で、もっと内科の存在を知ってもらわなくてはなりません。
これからの歯科は、バランスのいい歯科医療を提供できるように努力していきたいですね。


内科と外科、バランスがとれた医療こそ本来あるべき正しい医療です。

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